INTERVIEW

高千穂大学 内田稔/元メガバンクの外国為替チーフアナリストが語る、ドル円相場の見通し、注目ポイントとは

三菱UFJ銀行の外国為替チーフアナリストなどを経て、2022年から高千穂大学商学部の准教授を務める内田稔氏。マーケットの最前線で培った経験をもとに、教育・研究という立場から金融の世界を見て、感じたこととは。

為替相場の仕組みから、実務担当者がどのように市場予測をしているか、そして現在の円安相場・来年にかけての見通しなど、外国為替のエキスパートならでは見解について、話を聞いた。

内田稔:高千穂大学准教授

1993年~2022年 三菱UFJ銀行(2011年より外国為替のチーフアナリスト)
日本ファイナンス学会
日本金融学会
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト(CMTA)
国際公認投資アナリスト(CIIA)

メガバンクの外国為替チーフアナリストから、教育・研究の世界へ

ー最初に、これまでのご経歴等についてお聞かせください。

内田稔氏(以下敬称略):もともとは銀行に長く勤め、マーケットの最前線で実務経験を積みました。大学卒業後、入社したのは三菱UFJ銀行の前身である旧東京銀行です。当時は日本唯一の外為専門銀行と言われており、その後三菱銀行、UFJ銀行と合併しました。そこに29年間勤務したのですが、うち28年間はマーケット業務に従事しました。この為、銀行勤務は長いものの、お金を貸す融資業務には一度も携わる機会がありませんでした。

マーケット業務の中でも一番長いのが外国為替に関連する業務です。特に2011年以降は外国為替のチーフアナリストとして、いわゆる「ハウスビュー」という銀行としてどう相場を予測するのか、シナリオを策定したり、調査分析した内容をメディアの記事やレポート、講演で発信する役割を担っていました。

2022年の2月末で退職し、去年の4月から高千穂大学商学部の教員として国際金融論、金融論の講義のほか、国際金融に関連する専門ゼミも担当しています。そのほか現在も実務として外国為替の相場予測を続けており、メディア向けの記事執筆やテレビでの解説もしています。

ー外国為替相場の見方、価格がどうして変動するのかという基本的な仕組みについて、ご専門のお立場から説明をお願いできますでしょうか?

内田:外国為替も、各通貨の需要と供給によって価格が決まります。基本的にはメルカリに出品されている物の相場が上がったり下がったりするのと全く同じです。では、通貨の需要と供給が何によって決まってくるのか。一番大きく注目され影響があると考えられているのは、金利差です。対アメリカでみると、日本は金利が低い上、金利差も広がっていることが、円安に繋がっている一つの大きな要因といえます。

その次に影響してくるのが、貿易収支に代表されるような国と国との実際のお金のやり取りです。日本は貿易収支が赤字になって久しいので、常に日本の輸入企業がドルを買う金額の方が、輸出企業が売るドルよりも多くなっています。元々は日本は貿易黒字で、輸出企業が受け取った外貨を売って円に変える方が多かったのですが、特に昨年以降、顕著に逆転しています。短期的には金利差、そして数ヶ月から最長1年ぐらいのスパンで、貿易収支の影響が価格に出てきます。

そして、相場は常にオーバーシュート、行きすぎる傾向がありますが、金利や貿易収支などの影響が短期的に出過ぎた場合でも、2年から5年ぐらいのスパンで見ると、「購買力平価」に正しく戻ってくるはずだという見方があります。購買力平価というのは、例えばある基準時点において日本で100円の物がアメリカで1ドルで買える場合、1ドル100円で絶対的購買力平価が成立していることになります。その後、日米のインフレ率の格差に応じて相場が調整されていく考えです。

まとめると基本的には需要と供給、そこに影響するのは金利差と貿易収支に代表されるような国際収支、価格に異常値とか乖離が生じた場合も、数年単位では購買力平価に本来は戻っていくはず…こうしたメカニズムになっています。

「統計学的に正しくはない」、実務経験豊富な専門家ならではの数式とは

ーそうした為替レートを決定するいろいろな要素がある中で、例えば影響度の比率みたいなもの、例えば金利が7割など、ざっくりとした定量化はできるものなのでしょうか。

内田:金利差が何割で、金利差以外が何割という出し方は、できることはできます。例えばある1年間のデータから、ドル円相場は金利差掛ける〇〇(数値)プラス〇〇(数値)というように、一応数式化することができます。

ただし、当然日々の相場はその数式通りには動いていません。この為、数式から計算したドル円が148円のときにもし実際の相場が150円だとすると、その乖離している2円が、金利差以外の要因とみなすことが可能です。ただこれが統計学的に正しいかというと、必ずしも正しくない部分があり、そこが非常に難しいところなんですね。

少し専門的な話になりますが、例えば今日1ドル150円だとします。そうすると、明日151円、もしくは149円になる可能性はありますが、明日いきなり300円とか20円にはなりません。もちろん絶対ないとは言い切れませんが、限りなく可能性はゼロに近いと言えます。つまり、明日のドル円というのは、今日のドル円がいくらであるかに影響を受けてしまっている、そういう数字なんですね。このように、すぐ前のデータに影響を受けていたり、ドル高円安がスタートするとしばらく同じ傾向が続くといったトレンドを持っているような数字は、本当は金利差とは関係がないのに、あたかも金利差で説明できてしまうといった結果を招いてしまいます。

先ほどの影響度の比率を定量化できるのか、という質問に対しては、できるといえばできるけれど、ただそれが本当に統計的に見て正しいかのか、有意な結果なのか、というと、必ずしもそうとはいえず、寧ろ厳密に言えば答えは「できない」という回答になります。そこが本当に難しいところですね。

ーその数式というのは、投資会社や金融機関などが、それぞれ独自のものを持っているのでしょうか。

内田:はい、そうです。どのぐらい遡ってデータを集めるか、やデータの頻度によって式は変わりますし、あとは金利差と言っても長期金利なのか短期金利なのか、名目金利なのか、インフレ率を差し引いた実質金利なのか、用いる金利によっていろいろな式が作成できます。ですので、数式は分析者の数だけ存在しますね。

ーそれぞれの経験や考えに基づいてちょっとずつアレンジしているんですね。

内田:そうですね。また、数式をゼロから考えるというよりは、そのときに何が一番当てはまりがいいかを逆に探すということもあります。例えば去年は、名目金利の長期金利差でドル円が完全に計算できたのに対して、今年は2年の実質金利差がドル円をよく説明できている、だからしばらくはこういう見通しではないか…という具合です。ある意味、絶対的に正しい尺度が存在しないともいえますね。先ほどお伝えしたように、本来ドル円にしても金利差にしても前日のデータの影響を受け、トレンドを持っている数字であるため、厳密にはそういう数式が正しいとは言えません。。

ただ、そうは言っても、ほとんどのマーケット参加者は金利差からドル円が明日どうなるかと予想を立てているわけなので、統計的にみて金利差とドル円が全然関係ないと唱えたところで、それはそれで実際の市場では何の役にも立ちません。金利差によって予測がなされ、それが自然にマーケット全体の期待形成に繋がり、実際にそうした方向に動くのもまた相場ですから、やはり実務家の立場で言えば、金利差は為替相場形成に大きく影響していると言えます。実務と理論の乖離がややこしいところですね。

1ドル150円を予測した専門家は「ほとんどいなかった」

ー今の円安の背景について、金融政策との関係なども含め、どのようにお考えでしょうか?

内田:いろいろなところで言われていますが、一番大きい理由としてはやはり日銀の異次元緩和が挙げられます。日本の低金利が続く一方で、海外の金利はこの1年半で顕著に上昇していきましたので、この金利差の拡大がやはり一番大きく効いていると思います。

それから二つ目としては、日本の貿易赤字ですね。これが需給面でやはり円安に大きく影響していると言えるでしょう。

あとはやはり、日銀の異次元緩和が円安期待に非常に強く働きかけている部分があります。これは金利差が拡大しているからとか、貿易収支が赤字だからということと根は同じかもしれませんが、「海外と比べて日銀が緩和的だという状況はおそらく当分変わらないだろう」という見通しが市場参加者全体の円安予想に繋がり、投機筋の円売りなどに繋がっている部分があるといえます。

ー例えば5年前、10年前を考えると、ご専門の皆さんにとって1ドル150円という世界は、現実味があるものだったのでしょうか。とうとう来たかという感じなのかそれとも、まさかこんな数字がという風に驚きを持ってご覧になっている状況なのか、いかがでしょうか。

内田:少なくともウクライナに対するロシアの軍事侵攻前の状態で、1ドル150円という予測を立てていた人は、ほとんどいなかったと思いますね。

一部、日本政府の債務をテーマに、いずれ円が大暴落するという説をおっしゃっている方もいましたが、そうした理由で今の円安があるわけではありません。金融の世界で経済や金利から為替相場を見ている立場からすると、最高でもドル高円安が進んだ2014年の1ドル125円に達するかどうかという考え方が一般的だったのではないでしょうか。もっとも、その125円も相当な高値で、私も含め、せいぜい120円という見方の人がほとんどだったと思います。

理由としては、先ほどの金利差の考えでいくと、米国の金利がここまで上がることが予想されていなかったという点が挙げられます。そして、それなりにインフレとなった状況にも関わらず日銀がここまで頑なに異次元緩和を続けるということも、なかなか予想できなかったといえるのではないでしょうか。

ー何か今年ならではの特異な状況や、通常影響を与える要素以外に、影響を与えたと思われるイベントなどが何かあったのでしょうか?

内田:特にイベントではありませんが、おそらくほとんどの人にとって誤算だったのが、金利がここまで上昇したのにも関わらず、アメリカの景気がまだそれなりに強さを維持している、やはりここだと思います。この予想が大きく外れているんです。その結果、ドルがある程度高い水準を維持しているという側面がありますね。

ー昨年末ぐらいから、長期金利と短期金利の差を見るとアメリカは景気後退になるなると言われながら、悪くならない状況が続いています。これは今後も続く可能性があるといえるのでしょうか。

内田:金利の上昇によって、少しずつブレーキがかかってきてはいます。ただし、過去と異なり、アメリカの労働市場がまだ強く、需要と供給がある程度逼迫した状況が続いているんです。ここが、アメリカの景気が強さを維持している一つの要因と考えられます。労働市場が元気であるということは、それぞれの家計の所得環境がそれほど悪くなっていないため、そこが景気を支える形になっています。

アメリカは日本と同じく高齢化がすすんでいる上、コロナ禍で引退したシニア層がそのまま労働市場に戻ってきていない状態です。加えて、トランプ政権時代の移民制限などもあり、労働者の供給制約が残っています。そこにコロナ後の経済正常化による需要の高まりがぶつかっているので、アメリカの労働市場はまだしばらくタイトな状況が続くと考えられます。

年明け、年度末にかけて注目すべきポイントとは

ー年末から年明け、年度末にかけて、値動きに関して注目すべきポイントはあるでしょうか?

内田:これからの注目イベントというと、まずやはり日米の金融政策ですね。

アメリカに関して、半年ぐらい前までは「higher for longer」が一つのキーワードでした。より金利が高く、なおかつそれがより長期間にわたる、という趣旨です。それが最近は、「high for longer」に変わってきています。アメリカの経済も勢い自体は若干減速傾向ではあるものの、大きく崩れてはいません。よって、これ以上の利上げはないものの、今の高い金利水準をより長きにわたって続けるのではないか、といった見方です。

米国の金融政策を決定する会合であるFOMC(連邦公開市場委員会)が11月と12月の年内2回、さらに年明けにも1月と3月に予定されています。利上げがあるかどうか、今後についてどのような見通しを示してくるのか、非常に注目されています。

日本に関しては、現在、かなりインフレが進んでおり、おそらく来年は今の異次元緩和を少し正常化に向けて動かすと思われます。そういう意味では日銀の金融政策決定会合ももちろん大事ですが、その異次元緩和を考える上で重要な2つの注目点があります。

一つは日銀が3ヶ月に1回出している物価に関する見通し、いわゆる「展望レポート」です。ここで2024年度に加え、、2025年度のインフレの見通しをどう出してくるか。具体的には、2%台で出してくるのか、それとも2%には届かないという数字を出してくるのか、これは今後の動向を見る上で重要なポイントです。(※編集部注:インタビュー後、2023年10月31日、日銀は2024年度の見通しを従来の1.9%から2.8%へ引き上げた)。

それからもう一つは賃上げですね。異次元緩和を正常化に向かわせるためには、賃金上昇を伴う物価上昇が必要だと日銀は考えています。日本の賃上げが2024年度も続くのかどうか、これも注目すべき点になってきます。

この点に関しては、間もなく連合が来年度の春闘の方向性を示します。去年よりも相当インフレが進んでいますので、おそらく去年以上の要求水準を勝ち取るべく、方針を出してくるのではないでしょうか。2024年度の春闘で何%の賃上げを要求するのか、連合のスタンスも注視する必要がありますね(※編集部注:インタビュー後、2023年10月19日、連合は2024年の春闘に向けた基本構想を公表。定期昇給分を含む賃金の目標を、2023年の「5%程度」から2024年には「5%以上」へと引き上げた)。

ー現在、業種によってはかなりの人手不足で、すでに賃金上昇による人材確保の競争が激化しているとも言われます。企業はさらなる賃上げ要求に耐えられるのでしょうか?

内田:まさにその通りで、例えば日本商工会議所のアンケートでは、中小企業の6割から7割が人手不足で、さらに全体の7割の企業が、その改善策として賃上げをすると言っているんです。

しかし、本来賃上げの原資は生産性の改善です。生産性を上げるにはある程度の期間が必要で、短期間に急速に生産性を高めることは簡単ではありません。にも関わらず、日本に限らずですが、急速に人手不足が広がっているため、生産性が高まらない中で人手不足に対応するために賃上げをして人材確保に動く、そういう動きになっているんです。

大企業などは今積極的に業務効率化や省力化に向けた設備投資を行っているので、数年後には生産性も高まっていくと思われますが、その結果が出る前である賃上げの原資は今のところ値上げです。値上げばかりに頼ってしまうと、本来賃上げの恩恵を受けるはずの家計を苦しめてしまうので、結局、経済全体としてなかなかいい方向には向かいません。

値上げに頼ることなく賃上げの原資を確保する意味でも、企業の生産性の改善、それに向けた設備投資が急務です。

ーほかには、抑えておくべきポイントは何かあるでしょうか。

内田:あとはやはり地政学リスクに関連するものですね。アメリカは45日間のつなぎ予算を成立させ、ギリギリで政府機関閉鎖を回避しました。このつなぎ予算の次の期限が11月の中旬です。ここで本予算に持っていけるかどうか、結果によってはマーケットが大混乱に陥るのはもちろんですが、それだけではなく、ウクライナとロシアの戦局にも相当大きく影響が出る可能性が出てきます。というのも、ウクライナに対する直接的な軍事支援の半分はアメリカが出しているんですね。

予算案が通らないということは、そのウクライナに対する資金援助の半分が最悪ストップするということです。場合によってはお金の回りが悪くなることで、ロシアが一気に優勢になる可能性があります。

それがマーケットや経済にとってプラスになるかマイナスになるかは、いろいろな矢印があるため予測が難しいのですが、いずれにしてもアメリカのつなぎ予算の期限は、マーケットが懸念しているような政府機関閉鎖や米国債のデフォルト騒動などに加えて、ウクライナ情勢に対しても影響を持つと考えられます。

それから中東情勢に関しては、ハマスの後ろ盾としてイランが出てくるかどうかが警戒されています。戦線が拡大するだけではなく、イランは原油の供給元でもあるため、原油の値段が上がることによって、日本を含めたマーケットに対する影響はかなり大きなものがあると思います。

最後にもう一つ挙げると、不動産不況によって経済の風向きがかなり危ぶまれている、中国の動きもポイントです。11月の下旬から12月にかけて、

中央経済工作会議という会議が開かれます。

ここで来年の経済政策の方向性が議論され、談話という形で公表されるんです。正式に経済成長率の目標をどうするがという数字は3月の全人代で決まりますが、その前提となる方針みたいなものがなんとなく見える、そんな会議です。

中国がこの不動産不況打破に向けて、相当な財政大盤振る舞いをするのか、あるいは金融政策を緩和的にするのか、何かそういうヒントが出てくるイベントになりますね。

ー中国による日本への影響力は、以前ほど強くないのではいかという見方もありますが、実際はどうなのでしょうか。

内田:今年5月の広島サミットで、中国を念頭にリスクを低くするという意味で、デリスキリングということが言われました。中国依存度を落としていこうという方向性が主に西側、特にG7では共有されていますので、今後については確かに影響力が低くなっていく、あるいは低くしていこうという動きがあると思われます。しかし現時点においては、日中間の経済的な結びつきは相当強いはずです。現状ではまだ、中国経済の減速はかなり大きな影響を受けますね。

ただし、中国経済の停滞による影響はマイナス面だけではなく、その分日本に対する投資が増えるというプラス面が出てくる可能性もあるんです。

ーよりビジネスリスクの少ない日本に投資しようというイメージでしょうか。

内田:そうですね。例えば著名投資家のウォーレンバフェットは、早くから中国と台湾情勢の緊迫化を見越して、台湾向けの投資を引き上げて日本に株式投資を振り分けたことが報じられています。中国ないしは中台間の影響によって、日本に直接投資が振り向けられる、そうしたプラスの影響も考えられますね。

実務と研究の限界を知った上で、市場参加者に有益な調査・分析を

ー私たちが為替相場やマーケットに対する理解を深めることや、金融リテラシーを身に付けることについて、どのような観点から必要だと感じているでしょうか。

内田:日本は1990年台に入ってからここまでの約30年間、インフレというものが起きていませんでした。ということは、今の30代以下の方というのは、物の値段が上がるという感覚をほとんど持っていなかったわけです。

物の値段が上がらないときはお金は銀行に預けておくのが一番安全でした。物の値段が下がるということは、通貨の価値が上がっているので、特にリスクを負ってまで投資などをする必要はなかったかもしれません。

一方で、インフレとはお金の価値が実質的に目減りしていくことです。そうなったとき銀行にお金を預けたままにしておくのは危険です。事実上、資産価値がどんどん減っていく可能性が非常に高いということなんですよね。

そういう意味では、物の値段が上がるという今の状況で金融を学ぶ意義というのは、自分の資産をどう防衛するのか、という戦略に直結してきます。そういう観点で、金融リテラシーは今後身に付けておく必要が出てくると思います。

インフレ時における資産防衛の手段はいろいろとありますが、例えば昔から金を買うのは有効と言われています。金は埋蔵量が有限なので、絶対的な価値として信頼性が高く、インフレに強いとされているんです。それから株式投資や外貨投資、不動産投資なども選択肢としてあると思います。不動産は非常に値がかさみますし、流動性も落ちるので、普通の人が何かやる場合は、REITなど不動産の投資信託を活用した方が安全ですね。

いずれにしてもインフレのときは、自分の資産を守るため従来以上に金融の知識を身につけて、世の中のこと、お金の流れのことを常にアンテナを高くして見る必要があります。そういう意味では、金融の知識は非常に重要だと思います。特に若い方たちは、残りの人生、長い時間を持っています。投資において運用する期間が長いというのはそれだけで一つの大きな武器になります。長期目線でコツコツと積み上げていくような投資をぜひやってもらいたいなと思います。

ー今後の先生ご自身の研究について、興味のある分野などありましたら教えていただけますか。

内田:大学で金融関係を教えている教員のキャリアというのは、ほとんどが大学卒業後に修士・博士過程へと進み、そのまま研究や教育の実績を重ねていずれは教授に…という方々がほとんどだと思います。一方で金融業界で働く人は、実務を続けたあと、多くがそのままリタイアしていきます。この為、アカデミックな世界の研究者と、実際のマーケットで実務経験を積んだ人が接点を持つ機会が、それほど多くありません。

その点、私は長い実務経験を経て、今回こうして教育や研究に携わる立場に転職をしたので、その特異なキャリアを生かした取り組みをやってみたいと考えています。

例えば、先ほどお伝えした金利差とドル円相場に関して、実務家は統計的に本当に正しく有意と言えるかどうか疑わしいものでも、「こうだ」と言い切ってしまうことがあります。対してアカデミックな研究者は、時に金利差と為替は関係がないとしてそこでストップしてしまいがちです。この例だけ見ても、かなり両者には溝があります。。

実務の限界、あるいは研究や理論の限界の両方を知った上で、双方を知る自分ならではの分析や研究を通じて、多くの市場参加者にとって有益なものを出していけないか、というのが現在の希望です。簡単ではありませんが、実務だけに偏らず、理論だけにも偏らないような中で、両者を融合したものを成果として残していきたいですね。

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