INTERVIEW

Amalgam Art Gallery 梅原和宏/アート投資を通じてアーティストが育つ土壌づくりを

「アートがわからないという人に魅力を伝え、ギャラリーを通じて、現代アートの作家が日本で育つ土壌を作りたい」。こう語るのは、起業家・アーティストなどさまざまな顔を持つ、梅原和宏氏(30歳)。

20歳のときに、野球グローブを作る会社の3代目として父親から社長を引き継ぎ、その後、代表を務めながらオーダーメイドでエグゼクティブ向けの革製品を販売する会社を別に立ち上げた。そしてさらには、現代アートのアーティストとしても活躍している。

そんな梅原氏が共同代表を務めるのが、「Amalgam Art Gallary」だ。1960年以降に制作されたいわゆる「現代アート」に取り扱い領域を絞り、2023年1月にスタートした。

投資対象としてみたときの現代アートの魅力、アーティスト支援を通じて描く未来などについて、梅原氏に話しを聞いた。

梅原和宏

1993年 奈良県大和郡山市生まれ

2012年 渡英、イギリス・ブリストルに在住

2014年 父の会社である(株)UMEHARA&CO.代表取締役に就任

2017年 アパレル会社(株)プレジデント・ギア代表取締役に就任

2019年 阪急百貨店 有楽町で個展

2020年 代官山、中目黒で個展

投資対象としてみたときの、アートの強みとは

ー今回立ち上げたギャラリーについて、概要を教えて下さい。

梅原氏:「Amalgam Art Gallery」というギャラリーで、現代アートをメイン領域としています。

1960年以降に制作されたいわゆる「現代アート」に領域を絞り、草間彌生やロッカクアヤコ、BANKSYなどをポートフォリオにしています。

ー梅原さんご自身は、ギャラリーの中でどのようなお立場になるんでしょうか。

梅原氏:僕は買い付け実務と目利きを担当しています。うちのギャラリーの強みのひとつとしては、買い付け担当である僕が交換会と独自のコレクターネットワークにアクセスできる点です。

交換会というのはいわゆる美術商とか業者のみが参加できるクローズドなマーケットで、画廊が主催するものなどいろいろな交換会が存在しています。

また、コレクターとの太いネットワークも持っていることから直接買い付けることができることもかなりアドバンテージを持って買い付けることができます。

というのも、交換会は美術品の買い付け手数料がゼロなんです。そのぶん、出品者から手数料をとる仕組みです。一方で、オークションでは買い手からも出品者からも手数料をとる仕組みで、一般的には15%の買い付け手数料が必要です。

ー15%の差は大きいですね。投資対象としてみたときのアートの魅力というと、どういう点が挙げられるでしょうか?

梅原氏:一つは、高いリターンが期待できるという点ですね。Artprice.comのデータによると現代アーティストの中でも値段が高い上から100番目までのトップアーティストに関しては、年間値上がり率が8から9%あるんです。これは、2000年から2020年までのS&P500よりも高い実績です。

それから、今みたいな変動期とか不況に強いというのも魅力です。

株や債券が値下りしているときでも、アートは値下がりしづらいんです。投資先がない、お金の行き場がない局面での投資資産の受け皿になっていると考えると、富裕層を中心にアート投資への関心が高まっていることも納得できるかと思います。

起業家兼アーティストとしてマーケットとアートの架け橋に

ー梅原さんご自身もアーティストとして絵をかいていらっしゃるんですね。

梅原氏:僕は小さいころから絵が好きで、本当は芸大に行きたかったんです。でも実家は祖父が創業した野球のグローブを作っている会社で、跡継ぎでもある僕が美術大学にすすむことは考えづらいものがありました。

その後一般の大学に行き、中退後、3代目として会社を継ぎ、自分でも革製品の会社を立ち上げたんですが、コロナで全く仕事がなくなってしまったんです。その時に、せっかくのチャンスだと思い、もう一度絵を描きはじめたのがアーティストとして活動するきっかけです。

ただ、絵を描くだけではなく、マーケットとアートの架け橋的な活動ができることが、自分の強みだと考えています。

ビジネスのことを多少わかっていて、且つアーティストの視点を持てるという人間がなかなかいないので、社会的にはそちらの方が求められているなとすごく感じています。

自我像 Ⅶ Canvas on Acrylic H 65.2cm x W 53cm(F15号)

自我像 Ⅴ Canvas on Acrylic H 65.2cm x W 53cm(F15号)

ファンダメンタルのない現代アート、判断の指標は

ー株や債券の場合、ある程度利益の裏付けがありますが、アートがなぜ値上がりするのか、いまひとつわかりづらいと思います。どのような仕組みになっているのでしょうか。

梅原氏:確かに、現代アートは、ファンダメンタルとして見ることができる、わかりやすい指標がないんです。業界の中ではなんとなく肌感みたいなものがあるのですが、一般にはとてもわかりづらいと思います。

例えば、誰がコレクターとして保有しているか、どこの美術館に入っているか、その作家の同世代の作家は誰がいるか、そんなことも影響してきます。アートの価値体系理論みたいなのが作れたら面白いですね。

僕の場合、どちらかというとイベントドリブンで見ていますね。草間とヴィトンのコラボレーションもそれに当たると推測しています。

ー影響力のある人や著名人が「これすごい」と言うと急に跳ね上がるとか、そういうケースもありますか?

梅原氏:そうですね。著名人というか、現代アートはインフルエンサーマーケティングの側面も持っています。めちゃくちゃおもしろいのが、アート業界だけのインフルエンサーというか、そういう生態系があるんですね。

例えば、アート業界で名前がないハリウッドセレブがただ気まぐれで1枚買っても駄目なんですけど、例えばグッチの親会社であるケリングと世界的オークションハウスのクリスティーズのオーナーであるフランソワ・アンリ・ピノーが持ったら値段が上がると言われてます。

アートの世界における影響力を知るには、毎年公開されている「Power 100」(イギリスの現代美術雑誌「ArtReview」が毎年発表している、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング。「美術手帖」より参照)なども参考になります。こういうのを見ているだけでも、なんとなく雰囲気が入ってくるかもしれませんね。

出典:ArtReview · Power 100

ー梅原さんは、この作品、作家が値上がりするというのを、どのように判断されていますか。

梅原氏:僕個人の考えでいくと、特に若手作家の目利きの場合は、マーケットのトレンドをすごく重要視しています。トレンドと作品の系統、それからコレクター心理みたいなものがうまくそのピタッとマッチすると価値が跳ねるなと思っています。

例えばコロナ禍の時は、ポップとかいわゆるストリートアートがもうとにかくトレンドでした。BANKSYはじめアンディウォーホルも値段がすごく上がりましたし、日本人でもKYNE(キネ)とかがすごく人気になりました。

僕もそのころBANKSYとかウォーホルを買っていたのですが、今はちょっと系統の違うものにもカッコよさを感じていますね。個人的には、古き良き油絵モリモリのシャガールみたいなものに新鮮さを感じます。

かといって、シャガールなんて値段的にも手が出せませんし、そもそもそんなに出回るはずがありません。それから、シャガールそのもの、19世紀生まれの画家の絵ではなくて、そのカッコよさを持ちつつ配色とかデザインが今風のものに今は惹かれます。

また、論理的ではない話をすると最後は絵からパワーを感じるかどうか、が大事とも思います。という話をするから余計ファンダメンタルや投資指標から離れていくんですが…。

遠くから見ても多くの人が立ち止まって見てしまう作品かどうか。やはりウォーホルや新進気鋭の若手作家からはその力を感じます。

若手アーティストが日本で育つ土壌づくりを

ー無名の若手作家が世に出てくるかどうかは、どうやってみているのですか。

梅原氏:すごい難しい質問なのですが、一度、業界で知名度あるいは評価を取ってしまえば、新作を出し続けることである程度勝てる業界でもあると考えています。値段が上がり続けるか?人気が続くかは別ですが、会社に例えると、時価総額が低くてもいいからとにかく上場するのが大事というのに近い印象です。

アート業界における上場とは何かというと、オークションに取り上げられることだと考えています。エスティメイトが低くてもいいのでまずはそこに行かないと、アーティストとしての持続的成功は難しいと思います。

ーオークションに取り上げられるための基準のようなものはあるんですか。

梅原氏:株式の上場だったら、東証がルールを決めてくれてわかりやすいルールがありますが、アートの場合、オークションに乗るというのは正直、ブラックボックスに感じます。

ただ、オークションにも選考委員会があるそうで、その選考委員会の委員たちから、この人知ってるとか、この人めちゃくちゃ最近人気だとか、この前この人の展示会行ったとかっていう話がででると、取り扱ってみようかという話になるんです。

例えば作品が完売する個展が続くと、評価が上がりやすいというのはありますね。コレクターは手に入らないものが欲しいので…ただこれはオークションに取り上げられてる作家だから完売しやすいというある意味、鶏と卵の関係にも近いですが。

若手の場合は、アート業界として応援するべきだ!とオークショニアを熱くさせるぐらいの作品のレベルと実績でないとなかなか通らないので、厳しい世界ではあります。

ーご自身もアーティストでいらっしゃいますが、ギャラリーとして、若手作家への応援という側面もあるのでしょうか。

1億円以上の金融資産を持つ日本人は約366万人いるといわれていますが、そのほとんどがアートにお金を使ったことがないのではと思っています。お金もあるし、アートを見れば心が動くけれど、絵のことはよくわからない、百貨店で買うのは高そうだな…と。そこでとまっている人が大勢いるのではないでしょうか。

そういう富裕層に、とにかく1枚でも絵を買ってもらって、アートの世界に一歩でも踏み込んでもらうことが大切です。入口は投資でも節税でもなんでもいいと考えています。長期的にみると、それが若手作家が日本から育つ土壌作りにつながると思っています。

例えばたまたま、若手作家が絵を売っている場面に遭遇した場合、ある程度まとまった金額の絵を買ったことがある人と、まったく経験がない人では、反応が違うはずです。

一度まとまった金額で絵を買ったことがある人だったら、足を止めてその絵を見るでしょうし、気に入ったら5万、10万円ならポンと購入するかもしれません。富裕層にとって、無名の若手作家の絵の値段は、悩む金額ではないはずです。しかし、若手作家にとっては大金なのです。

どんなにお金が余っている人でも、アートの世界に触れたことがない人だと、そもそも選択肢に入ってこない。足を止めて絵を見るということすらしないかもしれません。

そういう人たちにボールを投げ続け、潜在マーケットをとにかく開拓することが僕のミッションだと思っています。

そして、日本から若手作家がもっと出てくる、富裕層やみんながそれを応援するような世界にできたら最高ですね。

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